「個人相手でもコンサルやってるかな」

ウルツは、同僚に誘われてやってみたオンラインゲームで知り合ったドイツ人。

そのゲームは国際色豊かで、様々な国の人が参加していた。ゲームの内容としては、キャラクターを育てて、撃破数を競い合うものだ。一人で参加もできるのだが、基本的にはチームで遊ぶことが多い。チームを作るときにはラウンジと呼ばれる場所に行って、声をかけるか、かけられるのを待つといった具合だ。

同僚に「一緒にやろう!」と言われたときは正直食指が動かなかったのだが、何事も経験と思ってやってみたらこれが意外と面白かった。当の同僚はといえば、早々に飽きてしまって今はもうプレイしていない。

そして、あるときチーム戦に参加すべく、ラウンジで誰かに声をかけようかと思っていると、そのドイツ人の彼が話しかけてきたのだ。

「すみません、友達と参加しているんですが、回復役を探していて。一緒に参加しませんか?」と。

私のキャラクターは回復の魔法が得意なので、それで声をかけたらしい。私は了承し、彼のチームに参加させてもらうことにした。
そして、戦いが始まってみると……。

(この人、もしかして初心者かな?)

彼が操作しているのは戦闘で仲間の盾となって突っ込んでいくのが役目であるキャラクターなものの、無茶なところまで踏み込んでは無駄にダメージを食らっていることが多い。

「ありがとう。何度も助けられていますね」

それが私の役目なので問題はないのだが、こうも無闇に特攻されては、回復魔法を使うための魔法ポイントがなくなってしまう。魔法を使うには魔法ポイントを消費するので、無限に使えるわけではないのだ。そこで私は彼にアドバイスをすることにした。

「MAP上に赤いラインがあるの、わかりますか?特攻するときはその手前までにするとあまりダメージを受けずに済みますよ」
「そうだったんだね。ありがとう」

彼は私の助言を素直に聞き入れ、赤いラインを越えて突っ込んでいくことはなくなった。結局、その戦いは私たちのチームが負けてしまったが、ラウンジに戻るとチームの人たちが次々と声をかけてくれた。

「It was saved. Thanks to you, he no longer acts unreasonably.」
「That’s right. He is always crazy.」
「え、あ、あれ?」

彼とは普通に日本語で話せていたのに、なぜかその友達はみんな英語だった。

「There is no such thing. I always judge calmly.」

彼も、英語で話している。
……まさか、外国人……?

「あの、外国の方ですか?」
「ドイツだよ。あなたは名前が日本風だったから、日本人かなと思って日本語で話をしました。ほかの友達は日本語が話せないから、英語で話しました」
「そうだったんですね……でも、私、英語が苦手で」
「そうみたいだね。ほかの友達には俺から伝えておきます」
「はい、あ、あのThank you. Dank」

かろうじて、ありがとうだけはドイツ語で伝える。その後、彼の友達はラウンジから出ていってしまったのだが、彼だけ残って私と話を続けた。久しぶりに日本語を話せる機会だから、と。

名前はキャラクターについている「ウルツ」と同じだった。リアルと同じにするタイプの人らしい。

ウルツは、企業相手にコンサルの仕事をしていて、以前は外資系の金融会社で営業をしていた。そのときに、日本の会社ともやり取りしていたので日本語は達者だった。私のほうもどんな仕事をしているか、休みの日は何をしているかなどを伝える。

それと個人サービスを展開している話も少しした。その場で二、三アドバイスをしてもらって、ウルツの実力が相当なものなのはわかった。

話していくうちにだんだんと砕けた話し方になって、普通に日本人の男の人と話している感覚になる。さきほどは、初対面だったので丁寧な日本語を話していたらしい。

「ところで、もしよかったら、連絡先を教えてくれないか?日本人の友達がいるといいなと思ってたんだ」
「いいですよ。Facebookでいいですか」
「もちろん」

……と、そこから1ヶ月に1回ぐらい電話をするようになった。そんなこんなで1年経ち、今に至る。

オンラインゲームは最近やっていないものの、月イチの電話は続いていた。とはいっても、向こうとは7時間も時差があるので1回の電話はそこまで長くない。それでも、現状を伝えてコンサルを頼むぐらいはできる仲だ。

私は思い切って電話をしてみた。今の時間帯なら起きているはず。

「やあ、どうした?」
「突然ごめんなさい。今、電話しててもいい?」
「ああ、構わない。アポ無しで電話なんて初めてじゃないか?それにちょっと緊張してるな。俺と電話するのに緊張なんてしなくていいんだぞ」

彼は電話でお客さんとやり取りすることが多いからか、電話口の声でこちらの様子を読み取るのがとても上手だった。実際、コンサルを頼むにあたって緊張してるし。断られることはないとは思うが、仕事上のことを頼むのは初めてだから。

「あのね、ちょっとお願いがあって……」
「詳しく聞かせてくれ」

減給の発表があったことと、オンラインで展開しているサービスに本腰を入れることを話した。そして、それに伴ってコンサルを頼みたいことも。

「どう、かな?」

恐る恐る聞いてみると、ウルツはいつものように落ち着いた声で答えてくれた。

「もちろん、引受させてくれ。他でもない君からの頼みだ」
「ホントに!?」

思わず前のめりな勢いで答えると、ウルツは電話口で少し笑って続けた。

「ああ、ちょうどオンラインコンサルを始めようと思ってたところだしな。君向けのいい教材も手元にある」

相談してよかった。そこからはコンサルが本業のウルツらしく、私の意向を考慮しつつ契約や費用の話をしてくれた。そして初回のミーティング日を決めて、電話を切った。

よし、これで前に進める。ウルツとの初回ミーティングの日に向けて私は自分のオンラインサービスの整理を始めた。

ーーーーー続きは教材へ!